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ツアーバス
 少年がひどく肩を落としたのは、あるいはこの果実が少しも分け与えられなかったためかもしれない。僕はその様子を見つめながら(ほんの少しは胸を痛めながら、だがしかし汚れ役を自らかって出ようという正義感を──あの人殺しの正義感をもって彼を冷徹に見つめながら)種を彼の足下に吐き出すと、そのまま彼を後にした。種は彼の足下で瞬時に芽吹き、ぐんぐん背を伸ばすと、青々と茂った大樹と化した。大樹には赤々と実ったライチの房がありあまる宝石のようにちりばめられ、それを観光客たちが写真に収め、ツアーガイドが慌てて解説した。
 僕はひどく不機嫌になって、表立って空騒ぎする良心たちを端からたしなめて行った。僕は良心も悪心も等しく嫌いなのだ。なぜならセクシーじゃないから。ケチで、使い捨てで、甘ったれだから。
 僕は思い立ったように振り返り、ライチの実をひとしきり収穫すると、大樹にガソリンをかけて火を放った。大樹は真っ赤な悲鳴をあげ、業火のなかで身もだえた。僕はおずおずとそれを見つめた。カメラの観光客たちは次々に遺憾の意を表明した。ツアーガイドはバスの運転手を連れてきて、連名で僕を非難した。

「なぜあなたはそんなことを──何の権利があってそんなことをするのか?」

 僕はこの大樹がセクシーでないことと、大樹の種を撒いたのが僕であることを厳格に主張した。ただ、セクシーでないものを燃やす理由については慎重に言明を避けた。もちろん彼らは僕のこの主張に同意しなかったが、彼らのうちの一人に収穫したライチの実を一粒与えると、途端にみんな口ごもった。
 少年は姿を消していた。僕は少年の代わりにライチを一粒口にした。


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