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英雄

1999年 木戸隆行
個展「LOVE CRAZY Installation」展示作品
 僕という不幸が導き出したのは、人はあまりに罪深いので、誰もが閉口してしまうということ、そして、僕はあまりに苦しいので、そのうち自殺するかもしれないということだった。しかし一方でそれは、初めての相手とのキスはなぜ爬虫類的な感覚がするのかという問いを投げかけ、また、結局人が人に教えることで、唯一ためになるものは、その問い方にあると結論した。例えば「その素材でいいの?」、例えば「その角度でいいの?」、例えば「その密度でいいの?」、等々……
 ただ、F氏が言うように「言葉は真実ではなく【そういうことにしておきたい】の感情であり、そもそも、言葉と真実とは独立している。背反ではない、独立である。であるから、一致もあれば、不一致もある」であり、W氏が言うように「(意味を)考えるな、(使用を)見よ」である。
 女は表面を見て男は内容を見る、この場合、女は言葉そのものを見て男はその意図を見る、などと言うが(他人事のようだが、それを言ったのは他ならぬ僕だ)、それは嘘だ。女と男というよりも、そういう人とそうでない人がいる、というだけのことだ。断っておくが、僕は表面がだめで内容こそ素晴らしいなどとは考えない。逆もそうだ。表面も内容も、どちらも等しく重要だ。そもそも真実と現実との違いは何か?どちらも【存在しない】ということでは一致している。いや、そんなことが言いたいんじゃない……
 粉っぽい蛾が飛んで来て、窓ガラスの向こう側に貼り着いた。そして髪の毛みたいに極細の六本の足を素早く動かし、上へ上へと上って行く……サワサワ、サワサワ……僕はビールを口にした……すると、八センチほど上ったところで蛾は止まり、今度は頭に付いた二本の長い触覚をバトンのようにグルグルと捻転させ始めた……グルグル、グルグル……グルグル、グルグル……

 君は僕の英雄だ。